京都市上京区の胃カメラ・大腸カメラ・婦人科・一般内科・小児科 吉岡医院

医療法人博侑会 吉岡医院
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妊娠中のお薬について

2014年7月27日

8月目前、
夏もいよいよ本番ですね。
みなさん夏バテしていませんか?

さて今回は、
妊娠中のお薬の安全性について、
専門ではありませんがお話しします。

当院には小児科があり、
その関係で私の外来には、
妊婦さんや授乳婦さんが時々受診されます。

その際よく聞かれるのが、
お薬を飲んで大丈夫かということです。
これは(特に内科医には)実は難しい問題なのです。

われわれ医師は、
使用するお薬の副作用や注意などの情報を、
「添付文書」というものから得ることができます。

 

「添付文書」はちょうど家電などについている、
「トリセツ」みたいなもので、
お薬ごとに飲み方や副作用など説明書があります。

しかしお薬の多くは、
妊婦さんに対する安全性について、
詳しく説明されていないのが現状です。

よく記されているのは、
「治療上の有益性が危険性を上回ると
判断される場合にのみ投与」という文言です。

みなさん、
この文言の意味、わかりますか?
最初見た時は私はよくわかりませんでした。

お薬を、
「出してもいいよ」と言っているのか、
「出さないで」と言っているのか。

妊婦さんにかかわらず、
患者様にお薬を出すときには、
お薬の効果を期待して出すのは当たり前です。

お薬にはほぼ必ずと言っていいほど、
副作用がありますので、
常に効果と副作用を天秤にかけてます。

従って、
「治療上の有益性が危険性を上回ると
判断される場合にのみ投与」
は当然の原則論を記載したにすぎません。

妊婦さんに対する危険性を明確にしていないのに、
どうやって一個人である医師が、
有益性と危険性の大小を比較できるのでしょう?

 

これはおそらく製薬会社の「逃げ」、
ひいては厚生労働省の「逃げ」だと思っています。
決して安全とは書かないのです。

確かに多くの薬は開発段階で、
妊婦さんを対象にした臨床試験が行われていないため、
安全性が保障できないのはわかります。

問題はその言い回しです。

おそらく安全なのだが、
そこは処方する医師の判断に委ねると、
最終責任を現場に押し付けているのです。

危険性の判断ができないために、
現場の医師は有益と分っていても、
妊婦さんにお薬を出すのをためらうのです。

では実際の臨床では「添付文書」以外で、
どのような判断基準のもとで、
投薬が行われているのでしょうか?

 


ひとつは日本産婦人科学会の、
「妊娠と薬物」という
ガイドライン的なものを参考にするということです。

そこには、
「妊婦さんで使用してはいけない薬」が
挙げられています。

ざっと挙げますと、

①アミノグリコシド系抗結核薬
(抗生物質)
②アンギオテンシン変換酵素阻害薬
アンギオテンシン受容体拮抗薬
(降圧薬)
③エトレチナート
(皮膚科の乾癬などに使用される薬)
④カルバマゼピン
(抗てんかん薬、必要性が高い場合は使用可)
⑤サリドマイド
(睡眠導入剤)
⑥シクロフォスファミド
(膠原病に使用されることがある)
⑦テトラサイクリン系抗生物質

⑧トリメタジオン
(抗てんかん薬)
⑨バルプロ酸ナトリウム
(抗てんかん薬、必要性が高い場合は使用可)
⑩非ステロイド性消炎鎮痛薬
(妊娠後期に使用不可)
⑪ビタミンA(大量)
⑫フェイニトイン
(抗てんかん薬、必要性が高い場合は使用可)
⑬フェノバルビタール
(抗てんかん薬、必要性が高い場合は使用可)
⑭ミソプロストール
(胃薬)
⑮メソトレキセート
(リウマチの薬)
⑯ワルファリン
(抗血栓薬)

となります。
(この中にはいわゆる抗がん剤は含まれていません。)
(報告は2006年のものです。)

逆に割り切って考えると、
ここに挙がっていないお薬はすべて、
(ケースにもよりますが)使用可能と考えられます。

「治療上の有益性が危険性を上回ると
判断される場合にのみ投与」の文言は、
言い換えると「妊婦さんに使用可と認めた」
と考えてよいはずです。

でも何となくネガティブな書き方のため、
医師は萎縮し処方をためらうのです。

逆にお薬を出さず、
母体のコンディションをおとすのも問題です。
むしろそちらの方が胎児の不利益になるかもしれません。

従って必要なときには、
母体の状況によっては、
投薬はきっちり行うべきと私は考えています。


より安全性の高い薬を選択するにあたり、
二つ目の方法として、
文献を参考にすることがあります。

妊娠の際の薬物に関する本はいくつかありますが、
一番参考になるのは、
次にある「妊娠と授乳」という本です。

この本は臨床の現場で、
実際に使用されているお薬を具体的に、
妊娠、授乳に分けて安全かどうかを記載しています。

先ほども書きましたが、
ほとんどのお薬に関して添付文書は、
役に立ちませんしどこか無責任です。

この本には臨床上使用経験の多い薬は、
個々の薬についてに安全と印がついています。
産科医以外の臨床医には非常に参考になります。

たとえば同じ種類のお薬で悩む場合、
特に胃薬などは大変数が多いのですが、
根拠をもってこの薬が安全と示してくれます。

私は以上の2点を以て、
妊婦さんにお薬を処方する根拠としています。


また妊婦さん側に
わかってもらわなければならないこともあります。

統計上の話をしますと、
薬物を服用していない健常妊婦であっても、
約1~2%の出生時に奇形が生じるとされています。

その後にわかる内臓の奇形なども含めると、
少なくとも5%程度の出生児に、
何らかの先天異常が生じていると考えられています。

 

つまりお薬を飲んだ妊婦さんに、
「奇形の子供が生まれたということ」
=「その時期の薬の副作用」とは言えない、
ということを知っていただく必要があるのです。

従ってお薬を出すときには、
自然発生の奇形があることを理解いただき、
そのお薬が奇形を増加させた報告がないということを説明し、
理解していただく必要があります。

またお薬の作用は妊娠の時期でも異なります。
妊娠時期は以下の4つの段階に分けて考えます。

①受精から妊娠27日目まで(無影響期)

②妊娠28日目から50日目まで(絶対過敏期)

③妊娠51日目から112日目まで(相対過敏期)

④妊娠113日から分娩まで(潜在過敏期)

①の時期は「all or noneの時期」と呼ばれ、
妊娠の継続か流産かいずれかの時期で、
お薬の影響や奇形の問題は生じないとされています。

つまりこの時期で流産してしまう場合は、
染色体異常か遺伝子レベルの問題と言われています。
妊娠が分かった時に飲んでいるお薬は、
基本的には流産などに影響を与えないと考えられます。

一番お薬の副作用で奇形が出やすいのは、
②の時期になります。

この時期は器官形成期と言って、
細胞が盛んに分裂し各臓器へと分化していく時期です。
この期間は最もお薬での影響を受けやすいとされています。

たとえばあの有名な「サリドマイド」では、
受精後24日から36日の間に服用した場合でのみ、
手足の形成不全の奇形が認められますが、
それ以前や以後の内服では奇形の報告はないそうです。

 

そういう意味からすると、できることであれば、
比較的安全と考えられているお薬も、
この時期を避ける方がいいのかもしれません。

また③④の時期には、
薬の影響はかなり限定的となり、
限られたごく一部の薬剤のみ使用不可となります。


もちろん母親が投薬を希望されない場合は、
比較的安全であることを説明しますが、
無理にお出しすることはありません。

しかしながら、
お薬を使用しないことで母体の健康が損なわれている、
そのことも胎児にとっては不利益なのかもしれません。

いずれにしても答えがあるわけではなく、
慎重な対応が必要なとなるため、
臨床医は常に判断の難しい対応を迫られているのです。

それでも、どうしても心配な妊婦さんは、
京都府立医大に尋ねてみましょう。

 


「潰瘍性大腸炎」という病気があります。

患者さんが20歳前後で発症することが多い、
若者にも多い病気です。

おもに大腸の粘膜が炎症を起こし、
下痢や血便を来します。
ストレスや環境の変化で増悪することのある、
皮膚科でいうとアトピーのような病気です。

安部首相がこの病気で、
第1期安部政権ではストレスで病状が悪化し、
退陣されたのは有名な話です。

この病気にはメサラジンという、
数少ない有効な治療薬があります。
腸の炎症を悪くしないために、
体調がいいときにも常に飲むことの多い薬です。

しかしこの薬も妊婦さんに対しては、
添付文書上は有益性投与(未確立)となっています。
今では妊婦さんでも継続することが多いようです。

 

以前ある若手医師が、
患者さんが妊娠したためにこのお薬を休薬していたところ、
指導医から中止しないように言われたそうです。

その若手医師は、
「添付文書には安全性は確立していない」とあります、
と反論したそうですが、
それでも指導医は処方しておくように言ったのです。

若手医師は、
「もし何かあって、訴えられたらどうするんですか!」
といったところ、
指導医はこう言い放ったそうです。

「訴訟が怖かったら医者なんかやめてしまえ!」

 


今回のテーマの核心は、
どうもこの辺にあるような気がします。