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家族性高コレステロール血症について

2018年8月17日

残暑厳しい毎日ですが、
皆様いかがお過ごしでしょうか?

 

8月も早いもので、
お盆が過ぎ、昨日、
五山の送り火も無事終わりました。

今年は夕方のにわか雨もやみ、
澄んだ空気の中で
夜空にきれいに浮かび上がりました。

 

実際のところ
まだまだ暑い日が続くと思いますが、
いよいよ蒸し暑い夏も終盤へと向かいます。

 

送り火と共に去り行く京の夏。

 

個人的には子供の頃の、
夏休みの宿題をまだやり残しているような、
ちょっとした焦燥感や寂しさを覚えます。

 

夏の疲れが出やすい時期です。
皆様も体調管理にご注意ください。

 

 

さて、今回のお話は
「家族性高コレステロール血症」に
ついてです。

 

皆様はこの病名、
聞かれたことがありますが?
初めて聞く方が大半だと思います。

 

家族性高コレステロール血症は生まれつき、
血液中の悪玉コレステロールである、
LDLコレステロールが
異常に増えてしまう病気です。

 

家族性高コレステロール血症は
英語では familial hypercholesteremiaといい、
略してFHと呼ばれています。

家族性高コレステロール血症という病名が、
ちょっと長いので、
この記事でもFHと呼ぶことにします。

 

LDLは通常、
細胞や肝臓にあるLDL受容体により、
細胞の中に取り込まれ、壊されます。

FHの患者さんは、
LDL受容体の遺伝子や
これを働かせる遺伝子に異常があります。

そのため血液中のLDLコレステロールが
肝臓や細胞に取り込まれないで、
血液の中に溜まってしまいます。

その結果、
若いころから高コレステロール血症となり、
病気のない方に比べ早くに、
心筋梗塞や脳梗塞を発症します。

 

家族性という言葉の通り、
この病気は遺伝性の病気の一つです。

一般的な遺伝形式について
説明します。

 

私たちの遺伝子は、
父親由来と母親由来の2つが
一組となって出来ています。

FHをひき起こすの遺伝子は常染色体上にあり、
病気のある親から子供に、
ある一定の割合で遺伝します。

常染色体優性遺伝の場合、
発症するのは以下の図のようになります。
(FHに限らず一般論でのお話です)

 

常染色体優性遺伝

 

Aの遺伝子を持つ方が患者さんです。
この図では黒で塗りつぶされています。

ここでAaの遺伝子を持つ方を、
「ヘテロ接合体」といいます。

もし両方の親が病気を持っている場合、
親の遺伝子はAaとAaになり(AAは少ない)、
AAの子供ができることがあります。

このAAは「ホモ接合体」と呼ばれ、
より病気が強く発現されます。
つまり重症の患者さんということになります。

 

家族性高コレステロール血症の場合でも、
LDL受容体やその働きに関わる遺伝子に、
この両方に異常がある場合を「ホモ接合体」とよび、
いずれか一方のみに異常が認められる場合を
「ヘテロ接合体」とよびます。

 

以下の表にFHの患者さんにおける
「ホモ接合体」と「ヘテロ接合体」の
違いをまとめています。

 

FH1

 

ホモ接合体は両親がFHでありますので、
患者数も極めて少ないのですが、
コレステロールの値は極めて高値です。

ヘテロ接合体の患者さんでも、
LDLの値は200を超えることも多く、
早い時期から動脈硬化が進行します。

 

その結果FHの患者さんの死亡年齢は、
男性で63歳、女性で72歳とする報告もあり、
日本人の平均寿命(男80歳、女86歳)からすると、
かなり若い時期に心筋梗塞等でなくなるそうです。

 

ここで、注目するのは、
その患者さんの数です。

 

ヘテロ接合体の
患者さんの頻度を見てください。
500人に1人となっています。

これは結構高い頻度であります。

例えば休日に大丸や高島屋に行ったら、
1人ぐらいFHの患者さんと
すれ違っているかもしれません。

 

日本のFH患者さんの総数は、
およそ30万人と推定されています。

 

こんな高い頻度の病気にも拘わらす、
あまり世の中で認知されていないのは、
どうしてでしょうか?

 

それは、
患者さんが自分がFHであることに、
気づいていないことが挙げられます。

それと同時に医療者側が、
FHを見逃している可能性があると
いわれています。

 

実際のところ、
日本におけるFHの診断率は1%未満であり、
多くの患者さんが気づいていないそうです。

 

各国のFHの診断率を示した報告があります。

 

FH3

Eur Heart J. 2013 Dec 1; 34(45): 3478–3490

 

この結果から分かるように、
残念ながら日本での診断率は低いようです。
USAやCanadaも低く、
ヨーロッパは逆に高いようですね。

診断するのに
高度な医療機器や高額な費用は必要ないので、
認識しているかどうかの問題なのでしょう。

 

ではFHの診断はどのようにして
行うのでしょうか?

 

まずはFHの患者さんには、
どのような症状があるのか
見ていきましょう。

 

① 眼瞼黄色腫・角膜輪
目の瞼のところに皮膚の黄色い盛り上がりが
できることがあり、これを眼瞼黄色腫といいます。
また黒目の周りに白色のリングが
できることがあり、角膜輪と呼ばれています。

②皮膚、肘、膝などの黄色腫
これも関節のところに柔らかい黄色の
しこりができるものです。

③アキレス腱肥厚
FHの患者さんの60~70%でみられる、
アキレス腱がが太くなる症状です。

 

このような所見がある方は、
FHである可能性が高いです。

 

そして、
実際の診断基準は、
以下のようになっています。

 

1.高コレステロール血症
未治療時のLDL-C ≧ 180mg/dl

2.腱黄色腫あるいは皮膚結節性黄色腫
上にあるような皮膚のしこりや
アキレス腱の肥厚を指します。

3.FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴
2親等以内の家族にFHの方がいる、
あるいは若くして心筋梗塞になったかたが
いる場合です。

(早発性冠動脈疾患とは、
心筋梗塞や狭心症を若くして発症することを指し、
男性55歳未満、女性65歳未満と定義されています)

 

上記3つのうち2つ以上が当てはまれば、
FHと診断されます。
それほど難しい診断基準ではないですね。

 

アキレス腱肥厚は、
指でアキレス腱をつまむと
おおよそわかります。

ほかの人のアキレス腱を触り、
自分のが太いなと思ったら、
可能性があると思います。

 

また、
健診などで測定したLDLの値が
いきなり250を超えるような場合は、
FHの可能性が高いそうです。

皆様も健診結果などが手元にありましたら、
一度チェックしてみてください。

 

コレステロール高値は、
健診ではよく引っかかる項目ですが、
ものすごく高い場合は放置してはいけません。

 

前回のブログでも出しましたが、
こんなグラフがあります。

 

LDL6

 

コレステロール値の積算が、
ある一定の数値に達すると、
心筋梗塞や狭心症を発症しやすくなる
というグラフです。

オレンジのラインFHの患者さんは、
生まれつきコレステロールが高いので、
30代でその水準に達しています。

 

FHの患者さんでなくても、
高いLDL値が持続している方は、
同じような勾配で水準に到達する
恐れがあります。

したがって、
LDLの値は適正に保つ必要があるのです。

また、高血圧、糖尿病、喫煙があれば、
それだけ勾配は高くなるので、
複数のリスク方は特に注意が必要です。

 

ガイドラインでは、
FHの患者さんのLDLコレステロールの値は、
100mg/dl以下を目標とするとされています。

 

ただもともと200を超えるようなLDLを
100以下にするのは難しいため、
治療前の半分でも可とされています。
(治療前240であれば120まで下げる)

 

このように、
日本ではまだまFHの患者さんが
診断されずにいる実態があります。

 

私は消化器内科が専門で、
生活習慣病はどちらか言うと専門外なのですが、
やはり普段から糖尿病、高血圧、高脂血症などの
患者様を診ている立場からすると、
積極的に疑わなければならないことに気づきます。

 

この記事は知識があるから書いたというのではなく、
一般臨床を行っている私の中で認識を高めるため、
備忘録的な意味で書きました。

 

皆様のご参考になれば幸いです。

 

【まとめ】

□ 未治療時のLDLコレステロール値が
180mg/dl以上

□ 手、足、眼瞼などに「黄色腫」がある

□ 2親等以内の家族に「FH」か、
早くで心筋梗塞なった方がいる

このような方は医療機関で
医師にご相談ください。

 

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