京都市上京区の胃カメラ・大腸カメラ・婦人科・一般内科・小児科 吉岡医院

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最近の便秘薬の使用について

2019年9月7日

9月になり秋の気配が漂うか、
と思いましたが、
まだまだ蒸し暑い毎日ですね。

 

皆様はお変わりありませんでしょうか?

 

9月は気温の日内変動、月内変動が
とても大きい時期になります。

 

季節の変わり目、
皆様も体調管理にご留意ください。

 

 

 

 

さて、
今回は便秘薬について
簡単にお話しします。

 

便秘薬はながらく、
酸化マグネシウムを中心とした
浸透圧性下剤と
センナを中心とした
刺激性下剤の2種類だけでした。

 

ラキソベロンというお薬が、
1980年に発売されて以来、
新たな便秘薬は出ておりませんでした。

 

1980年です。
私はまだ小学生の頃です。
相当昔ですね…。

 

 

そして2012年11月
アミティーザカプセル(ルビプロストン)という下剤が、
新しい作用機序を持つ下剤としては、
実に30年以上を経て発売されました。

 

そしてその後は2017年より、
立て続けに新薬が発売になりました。

 

2017年3月 リンゼス錠(リナクロチド)

2018年4月 グーフィス錠(エロビキシバット)

2018年11月 モビコール配合内用剤(ポリエチレングリコール:PEG)

 

上記のアミティーザと合わせると、
この数年の間に実に4種類もの新薬が
便秘に対して使えるようになったのです。

 

このあたりのことは、
発売されたころに当ブログでも、
簡単に紹介しております。

 

 

では、
これらの新規のお薬は実際に、
どのような方に使われているかのでしょうか。

 

便秘を扱っている我々でも、
どう使い分けていいのか
正直わからないことも多いです。

 

既存の浸透圧性下剤(マグミット)や
刺激性下剤(センナ、ラキソベロン)と
どの様に組み合わせるのか、
はっきりとした見解もありません。

 

 

まず初めに、
それぞれのお薬の特性を簡単に
復習してみましょう。

 

1.酸化マグネシウム

・大昔から使用されている便秘薬で安価
・水分を保持し便を柔らかくして出しやすくする
・内服量の調整がしやすい
・副作用は少ないが高マグネシウム血症に注意

 

2.センノサイド、ラキソベロン

・大昔から使用されている便秘薬で安価
・腸管を刺激し動かすことで排便を促進
・内服量の調整がしやすい
・耐性(だんだん効きにくくなる)や
依存(これなしでは便が出ない)があるとされ、
長期の服用には注意が必要

 

3.アミティーザカプセル(ルビプロストン)

・小腸のクロライドチャンネルというところに作用
・結果的に腸管内の水分を増やし便を軟化させる
・妊婦さんには使用できない

 

4.リンゼス錠(リナクロチド)

・小腸での水分分泌を促進することで便通を改善
・内臓痛覚神経線維にも作用し痛みや不快感を改善
・当初は便秘型過敏性腸症候群に保険適応され、
現在では慢性便秘症にも使用できるようになった
・腹痛を伴うような便秘の方に有効と思われる

 

5.グーフィス錠(エロビキシバット)

・胆汁酸トランスポーター阻害薬
・下痢を引き起こす胆汁酸の、
腸管からの再吸収を阻害することにより便を柔らかくする
・腸管を刺激するのと便を軟化させる両方の作用があり、
デュアルアクションと呼ばれている
・食前に内服するのでやや飲み忘れが多くなる

 

6.モビコール配合用剤(ポリエチレングリコール:PEG)

・ポリエチレングリコール製剤で、
これまでは大腸カメラ前処置にのみ使用可能だった
・袋に入った粉末の製剤で水に溶かして服用するので
錠剤を飲むより手間がかかる
・欧米では便秘治療で最も多く使われている薬剤

 

 

それぞれのお薬には特徴がありますが、
治療の効果としてはまちまちです。
どれもある程度効きますが、
既存のマグミットやセンナより効くかというと、
それほどではないことも多いです。

 

例えば腸の動きが悪い方は、
腸を動かして便を柔らかくする、
グーフィスなどがお勧めかもしれません。

 

また便秘と腹痛がある方は、
便秘型過敏性腸症候群を疑い、
リンゼスがお勧めです。

 

しかし結局はどのお薬が合うか、
どれくらいの量が必要か、
飲むタイミングはいつがいいのか、
個人差が大きいと思われます。

 

つまり使ってみなければ
その人に合うかどうかわからない、
というのが正直なところです。

 

それなので1剤で不十分であれば、
2剤併用も普通に行われますし、
ひどい便秘の方は3剤使用することもあります。

 

ただし、
最近出た新しい便秘薬だけを使用し、
治療するのは得策とは言えません。

 

何故なら便秘薬といえども、
新規の薬剤は薬価がとても高いからです。

 

それぞれのお薬の薬価を示します。

 

【既存の便秘薬】

酸化マグネシウム 1錠5.6円 1日3回 16.8円/日
センノサイド 1錠5円 1日2錠 10円/日

【新規の便秘薬】

アミティーザ  1cap  123円 1日2錠 246円/日
リンゼス 89.9円 1日2錠 179.8円/日
グーフィス 105円 1日2錠 210円/日
モビコール 83.9円 1日2包 167.8円/日

(実際の費用はこの金額の1~3割負担です)

 

よく見ると分かると思いますが、
既存の薬剤は1日10円単位、
さらにこれの1~3割負担ですので、
かなり安価であることがわかります。

 

それに対し新規の薬剤は、
1日当たり160円~250円とはるかに高いです。
3割負担とすると1日50円~75円程になります。

 

これを毎日内服するのですから、
当然金額は大きくなります。

 

もし新規の便秘薬を2剤、3剤併用したら、
どうなるでしょうか。
いい方は悪いかもしれませんが
たかが便秘薬なのに相当な額になってしまいます。

 

2種類以上の新規薬剤の内服がいいか悪いかは、
使用される方の満足度にもよると思われますが、
安易に使うのはできれば避けたいものです。

 

便秘の患者様の数自体が多いだけに
たかが便秘薬といえど値段が10倍にもなれば、
医療費も大きく膨らみます。

 

厚労省からもモビコール発売の際に
以下の通達がされています。

 

「モビコール配合内用剤についての留意事項
本製剤の成人への使用に当たっては、他の便秘症治療薬(ルビプロストン製剤、
エロビキシバット水和物製剤及びリナクロチド製剤を除く。)で効果不十分な場合に、
器質的疾患による便秘を除く慢性便秘症の患者へ使用すること。」

 

これは要するに新規の便秘薬は
マグミットやセンナを使ったうえで、
不十分な方だけに使ってください、
ということになります。

 

恐らく新規の便秘薬が既存に比べ高額なので、
医療費の増大を抑えるために、
わざわざ通達したのではないかと思います。

 

ということで、
専門家もおっしゃっていますが、
便秘薬の使用に関しては、
基本はやはりマグミットでしょうか。

 

センナ系は依存や耐性の副作用もあることから、
マグミットで出にくい時のために
屯用で使用するのが良いでしょう。

 

それでもセンナを毎日使わないと出ないとい場合、
センナの使用頻度を減らす目的で
新規の便秘薬を考慮するのでどうでしょうか。

 

新規薬剤1剤追加で思うようにいかなければ、
新規薬剤2剤目を追加する前に、
別の新規薬剤に変更するというのでいいと思います。

 

それぞれ作用機序が異なるため、
違うお薬に替えるだけで、
その方に合うものが見つかるかもしれません。

 

従って、安易に新規薬剤を2剤3剤と追加したり、
最初から新規薬剤を開始したりするのは、
医療経済上もあまり良くないかもしれません。

 

 

では、
新規薬剤はどのような順で使えばいいのか、
それに関してはまだ良くわかりません。

 

いろいろ試して、
患者様ごとに最も効果的と思われる薬剤を
探していくしかないと思います。

 

私もいろいろ試して
結局マグミットとセンナで
治療している方もおられます。

 

新規薬剤だから優れている、
値段が高いから効果も高いというわけでは
ないと思います。

 

便秘薬も今まで使うものが限られていたのが、
この数年で急に数が増えました。

 

これから少しずつ使用する患者様が増えて、
便秘薬として色々な知見が蓄積し、
新たな提言がされるものと思っております。

 

ただ長期間内服する薬ですので、
センナのような副作用には、
ご注意いただきたいと思います。

 

 

ご参考になれば幸いです。

 

 

吉岡医院  吉岡幹博

 

 

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