医療法人博侑会 吉岡医院
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セレキノンが販売中止になるという衝撃

2022年5月27日

暑い日が増えてきました。

発熱外来に来られる方も、
待合室が埋まっているときは
ガレージで待っていただくこともあります。

今後もコロナ感染は続くと考えられ、
発熱外来にはやはり暑さ対策が必要ですね。

皆様もコロナ感染とともに
熱中症にもご注意ください。

 

 

さて、
皆様は「セレキノン」という名前のお薬を
ご存知でしょうか。

セレキノンは先発品の商品名で、
薬品名で言いますと少し長いのですが、
「トリメブチンマレイン酸塩」という製品です。

このお薬は過敏性腸症候群の方に使います。

 

過敏性腸症候群という病名には、
あまりなじみのない方もおられると思いますが、
非常に患者さんが多い病気です。

過敏性腸症候群はお腹の調子が悪く、
それと関連して便秘や下痢など排便に関する異常が
数ヵ月以上続く状態の時に診断される病気です。

よくストレスで下痢をする方、
便秘や下痢を繰り返したり、
常にお腹がはって苦しんでおられる方、
この様な方はこの病気の可能性があります。

もちろん、
大腸に腫瘍や炎症などの病気が
ないことが前提になります。

成人の10%程度の人が
この病気であるといわれている、
とてもよくある病気です。

原因はよくわかっていませんが、
自律神経の不調が関係していることが多いです。

腸はストレスによって不安状態になると
腸の収縮運動が激しくなり、
痛みを感じやすい知覚過敏状態になります。

この状態が強くなり日常生活に支障が出てくると
過敏性腸症候群として治療が必要となります。

 

その過敏性腸症候群の治療によく使用されるのが、
このセレキノンというお薬です。

下痢や便秘に使う過敏性腸症候群のお薬は、
他にもいろいろとあるのですが、
腹部のはりや痛みに効くお薬はあまり多くありません。

その様な意味でとても重要なお薬です。
当院でも多くの方に使用しており、
治療薬としては第一選択となることも多いです。

最近ではジェネリックが使われ、
「トリメブチンマレイン酸塩」の名前で
内服されている方も多いと思います。

今回、その重要な薬であるセレキノンが
販売中止となることが判明しました。

これはなかなかインパクトのある出来事です。

 

ご存知の方もおられるかもしれませんが、
2020年12月から大手ジェネリックメーカーが、
業務停止処分を受けています。

理由は様々ですが業界大手の「日医工」は
品質試験で不適合となった錠剤を砕いて再び加工したり、
出荷前の一部の試験を行わないなど、
国が承認した工程とは異なる製造続けていました。

そのあおりで他のジェネリックメーカーにも調査が入り、
さまざまな不備や不正が明るみに出たのです。

いくつかのジェネリックメーカーが業務停止となり、
製造中止となったジェネリック医薬品の中に
「トリメブチンマレイン酸塩」も含まれていました。

ジェネリックが入手困難となると、
当然先発品であるセレキノンの需要が高まり、
その結果先発品の供給も追い付かない事態となりました。

2021年10月からはメーカーから出荷調整がかかり、
安定供給はできなくなりました。

出荷調整とはある需要が供給を上回った際、
完全に在庫が枯渇して出荷停止となってしまうのを避けるために
メーカーが自主的に供給量を調整することです

当院でも処方したくてもできない事態となり、
患者様には「トランコロン」など、
別の薬を出し凌いでいました。

 

そして一昨日のことです。

当院にセレキノンを製造販売する
田辺三菱製薬株式会社の担当の方が訪問され、
「セレキノンは今後販売中止になります」という
衝撃の報告を受けました。

「ちょっと待ってください、理由は何ですか」
私はあわてて聞き返しました。
安定供給されるのを心待ちにしていたからです。

「材料が手に入らなくなったからです」
と担当の方は言いました。

 

材料が手に入らない?

私はセレキノンの材料が何なのかは
全く知りません。

しかしセレキノンなんて大昔からある薬です。
調べると販売開始が1984年とありますので、
もうかれこれ発売から40年近くたつお薬です。

それが材料が手に入らないとは?
材料はロシアかウクライナから
輸入しているとでもいうのでしょうか。

 

他にも理由があるはずです。

私の勝手な推測ですが、
先発メーカーはもはやそんな古くて安い薬を
需要に追いつくほど作りたくないのではないでしょうか。

本来はジェネリックメーカーが
薄利多売してきたお薬です。
それでバランスが成り立っていたのです。

作りたくない理由は恐らく、
薬価が非常に低いことです。
作れば作るほど赤字なるのだと思います。

国はこの何十年間、
社会保障費を抑えるために
医療費と薬価をできる限り削ってきました。

そのため日本の製薬メーカーは、
収益が減り新薬の開発費がなくなりました。
国際的な競争力も著しく低下しています。

その様な中で起きた
数多くのジェネリックメーカーの処分。

先発品メーカーが新たに製造ラインを増やし、
需要を満たすだけの設備投資をするでしょうか?

 

現在でも多くの薬が出荷調整がかかり
入手困難となっています。

今回のセレキノンの突然の販売停止は、
ひょっとすると材料の不足などではなく、
採算不良薬品を切り捨てたのではないかと思っています。

背景は国の薬剤費に対する抑制があると思われ、
私は必要な薬品を安定供給させなかった、
国、厚労省に一部責任があるのではないかと考えています。

もちろん安定供給を目指さなかった
大手製薬会社にも問題はあると思います。

 

私が医者となり20年以上がたちますが、
この様に現場で重宝されている薬が副作用などではなく、
突然市場から姿を消すことなどあまり記憶にありません。

そしてさらに驚くことに、
セレキノンの代替薬品として使用している
「トランコロン」というお薬も、
同じ日に別の担当者から製造中止の知らせが届きました。

これで過敏性腸症候群に使用するお薬は、
2つの大きな選択肢を失ったことになります。
「飛車」「角」抜きで将棋を戦うようなものです。

もともと有効な薬が少なかった過敏性腸症候群は、
これからどのように治療すればいいのか、
患者さんの数が非常に多い疾患だけに不安がよぎります。

またこれが引き金となり、
出荷調整のかかっている多くの大切なお薬も
使用できなくなるのではないかと心配しております。

仮に私の考えていることが当てはまっていたとれば、
医療費削減のために安いジェネリック医薬品を
推奨してきた国の責任は大きいです。

ジェネリックメーカーの杜撰な製造も、
利益が少なく経費を削減せざるを得なかったのかもしれません。
それでも許されることではありませんが。

ジェネリックメーカーを処分だけして、
薬品不足の問題を解決せず放置したままにする、
国の責任も大きいような気がします。

 

今後日本の医療は薬不足という前代未聞の難題を
突き付けられるかもしれませんね。

もちろんそうならないことを願っていますし、
実態から目を背け社会保障費の削減ありきの政策に、
そろそろ終止符を打たなければなりません。

 

吉岡医院  吉岡幹博

関連ブログ
「セレキノンに続きトランコロンも販売中止へ、その理由は…」(2022年6月7日)