京都市上京区の胃カメラ・大腸カメラ・婦人科・一般内科・小児科 吉岡医院

医療法人博侑会 吉岡医院
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クリニカル・イナーシャについて

2022年11月17日

少しずつ寒くなってきましたね。
紅葉も例年より少し早い気がいたします。
皆様はお変わりございませんでしょうか。

コロナの患者様も少し増えてきて、
医師会によるともうすぐ次の波がくるとのことです。
ただもう慣れてしまった感もいたします。

そこに今年はインフルエンザの患者様が
混じってくるようになりました。

おととし、去年はほとんど出なかったので、
それを理由にインフルの検査は省略していましたが、
今年は全く無視するわけにはいかないようです。

皆様もワクチンを早めに打つなど、
対策をなさって下さい。

 

 

さて皆様は
「イナーシャ」という言葉をご存知でしょうか。
あまり聞き慣れない言葉かと思います。

イナーシャ:inertiaとは「慣性」という意味で
止まっているものは止まり続けよう、
動いているものは動き続けようとする、
物理的な特性のことを指します。

外からの力の影響を受けず、
そのままの状態にある性質をいいます。
「惰性」と言い換えることもできるようです。

物理学的な用語として使用される一方で、
クリニカル・イナーシャ:Clinical inartiaという用語で、
医療の分野でも最近使われることも多くなりました。

 

クリニカル・イナーシャ(臨床的惰性)とは 、
「治療目標が達成されていないにも関わらず、
治療が適切に強化されていない状態」 と定義されています。

治療目標に達していないのに、
いままでのおくすりを漫然と継続処方していたり、
原因検索しないまま放置していたり、
同じ量を出し続けていたりすることを指します。

 

例えば、

他院から当院に移ってこられる患者様の中には、
前医では何十年も同じお薬が出されいて、
これでいいのか不安で来られたという方もおられます。

その治療が適切であれば問題ないのですが、
効果不十分であったりより適切なお薬があったりするときは、
クリニカル・イナーシャであるといえます。

 

これが起こりがちなのが、
高血圧や糖尿病の治療などの
慢性疾患に対する投薬です。

高血圧の治療には学会から降圧目標の数値が出ていますが、
その設定に到達していない例が多くみられるそうです。
本当は2剤、3剤と追加して下げなければいけないのに、
1剤で済ませていて降圧不十分ということもあります。

糖尿病でも目標値に到達していなくても、
医療者も患者様も一応治療はしているのでと、
漫然と繰り返しているケースも少なくありません。

ある程度やって治療したつもりで満足してしまう、
しかし治療効果としては不十分なので、
患者様にとっては不利益を被っていると言えます。

 

これは私にとっても他人ごとではなく、
常に起こりうることとして注意をしています。

特にご高齢の方では、
様々な訴えに対しお薬を出し続けていると、
だんだんお薬の種類が増えていくことがあります。

中にはその症状はもうなくなっているにもかかわらず、
きちんと評価しないためにずっと出し続け、
逆に副作用が出ていたりということもあります。

当院の患者様でも、
何かのきっかけで病院に入院されたときに、
退院の際に薬がごっそり減っていることがあります。

それは入院先の医師が当院の薬を、
必要な薬とそうでない薬をで整理されたことを意味し、
私自身がイナーシャに陥っていたことになります。

日々変わりなく体調よく通院されていると、
ついつい同じを薬を出して、
大丈夫と思ってしまう習性があるのです。

これには気を付けなければなりませんね。

 

イナーシャから抜け出すタイミングとしては、
一つは新薬が出た時があげられます。

それまで手詰まりになっていた治療が、
新しい薬で打開できる可能性があるからです。

高血圧のお薬や糖尿病のお薬は、
次々に新しい機序の新薬が出てくる分野であり、
それらを有効に利用すれば改善できることもあります。

そういう意味では、
常に新しい情報をキャッチしておく必要があります。
私もで時間があれば講演会や勉強会に参加し、
知識をアップデートするように心がけています。

 

因みにこのイナーシャという言葉の語源は、
ラテン語のiners(in否定)+ ars(art技術)=「技術がない」
→「自ら動く能力が無い」という意味から来ているそうです。

語源が一番真理をついていると思います。

 

吉岡医院 吉岡幹博