京都市上京区の胃カメラ・大腸カメラ・婦人科・一般内科・小児科 吉岡医院

医療法人博侑会 吉岡医院
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4月から始まる「医師の働き方改革」について

2024年2月27日

1月から2月への一番寒い時期を越え、
少しは過ごしやすくなりました。

3月になると新年度に向けての準備とか、
何かと忙しくなるのではないでしょうか。

今年は診療報酬の改定の年ですので、
私もこの時期は少しそわそわします。

皆様は如何お過ごしでしょうか。

 

 

今回は、
今年4月から開始される
「医師の働き方改革」についてのお話です。

皆様は「働き方改革」と聞かれると、
もうとっくに始まっているんじゃないの?
と思われるかもしれませんね。

医師以外の一般向けの働き方改革は、
2019年からスタートしています。

その2019年から実施された、
一般向けの働き方改革では、

・少子高齢化に伴う労働力不足の危機
・長時間労働の常態化による労働参加率の低下に対する危機
・多様な働き方への対応の遅れに対する危機

が課題として挙げられていました。

これらの課題を解決するために、
時間外労働の上限規制の導入が
大きな柱となっています。

・原則として時間外労働の条件は月45時間、年360時間

特別な場合、

・年720時間以内
・複数月の平均残業時間が80時間以内(休日労働含む)
・月100時間未満(休日労働含む)

となっています。

つまり一般の労働における時間外労働の上限は、
年720時間以内と決められています。

 

しかし医療業界に関しては、
急にこのような制限を設けることはできません。

なぜならこの国の医療は、
医療従事者のたゆまぬ努力と、
医師の長時間労働により支えられてきたからです。
(厚生労働省:医師の働き方改革解説動画より)

病院勤務の医師は、
月80時間以上(年間960時間以上)の残業を
約40%の医師が行っており、さらには、
10%の医師が月160時間以上行っているそうです。

時間外月80時間は一般の過労死ラインですので、
半分近くの医師は体力のぎりぎりまで働いているのです。

また160時間と、
とんでもない働き方をしている医師も
僅かながら存在するようです。

 

この様な持続不可能な労働時間で、
医師は勤務しているのですが、
逆に言うと医師がこれだけ時間外労働をしなければ、
日本の医療は成り立たない側面もあります。

私のころもそうでしたが残業というよりは、
あくまでも自分に与えられた必要な業務をこなすため、
延々と業務に当たっていました。

自分の勤務時間が何時から何時までで、
残業手当がどのような条件になっているか、
知らず働いている医師も多いと思います。

 

それがこの4月から、
時間外労働の上限が年960時間に制限されます。

また地域の基幹病院で救急を行っているところ、
大学病院などは特例水準を申請したうえで、
年1860時間の制限となります。

ただこの1860時間の水準も、
今後10年で撤廃される見込みで、
これは全員が960時間の時間労働の中で働くことになります。

 

余談ですが、私が研修医だった25年前、
外科医として大学病院で勤務していましたが、
例えば肝移植など大きな手術の患者様を受け持つと、
3日間ICUに寝泊まりしながら働いていまいした。

その頃の研修医の給料はとても安かったので、
駆け出しの頃から医師はお金のために働くものではない、
日々の業務が終わるまでは帰ることはできない、
そのような漠然とした思い込みがありました。

もちろん日々の仕事は、
定時が来たら終わるものではありません。
重症患者を抱えているときには終わりなどありません。

また緊急手術が入れば、
予定をすべて投げ出して業務に当たります。
短くても4~5時間くらいの時間外業務となります。

 

私は医師としてのスタートがそんな状態ですので、
その後の勤務する病院でも労働条件や契約内容など
あまり気にしたことはありませんでした。

どちらかといえば、
その病院でどのような仕事をさせてもらえるのか、
医師としてその仕事が自分に役に立つかどうかが重要で、
報酬などはある意味どうでもいいという状態でした。
(どうせいい病院ほど給料は安いので)

ただ私も勤務医時代はずっと独身でしたので、
あまりお金のことは気になりませんでしたが、
家庭を持つとそうはいっていられなかったと思います。

 

そもそも医師がそれだけ働かなくてならないのは、
日本の医療制度自体に問題があるようです。

OECD加盟国の中で人口1000人当たりの医師数は、
最も多いのはギリシャで6.2人、ドイツ4.4人、
フランス3.2人、アメリカ2.6人、日本は2.5人で
38か国中33番目だそうです。

一方人口1000人当たりの病床数は、
日本が12.8床で、ドイツ7.9床、フランス5.8床
アメリカ2.8床で、日本は極めて多いため、
医師一人当たりの受け持ち患者数は多くなっています。

このことから考えると、
医師の業務自体がとても多く、
勤務時間内に終わるものではないのだと思います。

また医師は新しい知識や医療技術を、
常にアップデートしなければなりません。

そのために研修に出かけたり学会に出席したりします。
また院内でも日々知識や技術を身に着ける時間が必要です。
その時間は「自己研鑽」として労働時間には含まれません。

自己研鑽か労働かその線引きが非常にあいまいで、
制度上上司や医療機関からの指示で仕事をした場合は、
一応時間外労働に含めていいとのことです。

結局のところ勤務時間以外の仕事の時間が、
自己研鑽として労働時間に認定されないのであれば、
医師の過重労働はあまり改善されないと思います。

 

この4月から医師の働き方改革を実施するにあたり、
病院は時間外で医師を働かすことができなくなり、
また当直明けなどは次の勤務までのインターバルが必要で
翌日の業務は行えなくなります。

皆様はご存知かどうか知りませんが、
当直明けの医師は当直の翌日は普通に勤務します。

一晩当直で休めなかった次の日も、
普通に外来にでたり手術をしたりして、
夜まで業務をこなすようになっています。

そのため当直明けの医師が、
インターバルで仕事できなくなると、
病院としては救急業務や外来の縮小など余儀なくされます。
欠員が出るので当たり前の話です。

また医師もこれまで時間制限なく仕事に行けていたのが、
時間制限やインターバルで行けなくなるので、
当然収入に影響が出るのだと思います。

本来健康のことを考えると、
その様な時間制限は必要なのですが、
これまで成り立っていたバランスが崩れることになります。

例えば大学病院で勤務されている先生は、
専門的な研究や医療を行うため、
見合わない報酬で働かれている方もおられます。

その様な尊い志を持たれている先生方も、
やはり生活のために大学以外の医療機関で
収入を補っている方もおられます。

 

医師の頑張りによって支えれれてきた医療なのに、
国は時間外労働を制限するだけで、
それに伴う医師の不足や病院の収益低下、
さらには医師自身の収入の低下など、
派生する問題には取り組んでいない様に思います。

今回の医師の働き方改革は、
病院の勤務医にのみ適応されるのですが、
今後病院の機能の低下、救急受け入れ制限がおこると、
患者様は行き場を失うかもしれません。

そうすると過重労働のしわ寄せはどこに来るか。
ちょっと考えただけでも心配になります。

現に近くの中堅病院でも、
4月から夜診を全面的に停止すると発表しています。
となるとそれらを支えるのは、
基幹病院の救急外来や地域のクリニックとなります。

 

この制度実は問題が多く残されています。
果たして夜間救急をアルバイトで行っている
中小の病院は機能を維持できるのか?

もし維持できなければ、
ただでさえあふれかえっている基幹病院での救急が、
機能しなくなるのではないか。

当院も小児科の診療を
基幹病院や大学病院勤務の医師で補っています。

今すぐには問題にはならないと思いますが、
今後派遣を断られた際には、
小児科の診療が継続できない可能性もあります。

4月以降、どのようなことが起きるのか、
注意して見守る必要があると思います。

 

吉岡医院  吉岡幹博

 

【参考】
厚生労働省:医師の働き方改革 制度解説動画