2025年8月7日
いよいよ8月になりました。
ますます異常気象で高温が続いておりますが、
皆様お変わりないでしょうか。
当院は10日から17日まで夏季休業を頂きます。
今年は長期に申し訳ありません。
皆様体調に気を付けてお過ごしください。
●
少し前のことになりますが、
ある一冊の深く印象に残る本を読みました。
その本のタイトルは、
『東大病院をやめて埼玉で開業医になった僕が
世界をめざしてAIスタートアップを立ち上げた話』
著者は多田智裕先生という
東大医学部出身の外科医、消化器内視鏡専門医であり、
胃腸科肛門科のクリニックを開業したドクターです。
現在は AIメディカルサービスという
医療AIのスタートアップ企業を率いておられます。
こちらの本を偶然アマゾンで見つけて、
内視鏡とAIに興味があり購入して読みました。
タイトルこそ少しインパクトがありますが、
医師として患者さんと向き合いながら感じた
「がんの見逃しをなくしたい」という想いから始まりまる、
ドキュメンタリー映画のようなお話です。
その強い思いからAI内視鏡診断という
前人未踏の新しい領域に挑戦していく過程が
丁寧に綴られています。
私みたいな凡庸で医者の底辺の人間からすると、
よくこんな世界に挑戦するなあ、
東大の人はスケールが違うなあと感心してしまいます。
単なる起業家としての成功物語ではなく、
医療者としての葛藤や希望が込められた一冊であり、
共感を覚えながら読み進めました。
そんなことがあってから、
しばらく後のことです。
当院にそのAIメディカルサービスの営業担当の方から
ご連絡がありました。
内容は、同社が開発したAI内視鏡診断システムのご案内で、
オンラインで製品について説明したいとのこと。
もちろん先方は私が本を読んだことなど知らないはずですが、
私はちょっとわくわくしてしまい、
普段なら断る飛び込み営業の面談を受けることにしました。
その際は、営業の女性の方が丁寧ではありましたが、
「多くの医療機器企業が行っているような、製品の紹介」といった印象で、
特段強いご縁を感じるようなやり取りではありませんでした。
ところが、それからまたしばらく経ったある日。
今度はAIメディカルサービスの秘書の方から、
当院に突然ご連絡をいただきました。
「近く、多田代表が京都に出張で訪問する予定があり、
その際にぜひ、貴院にご挨拶に伺いたいのですが――」というものでした。
あの著書を読み、
勝手に“遠い存在”のように感じていた代表の先生が、
まさか当院を訪れるというのですから、
当然のことですがとても驚きました。
もちろん当院は決して大病院ではなく、
内視鏡検査の件数も多いとは言えません。
京都には他にも多くの内視鏡クリニックがありますので、
「なぜ当院を?」という疑問は最後まで拭えませんでしたが、
ありがたいご縁と捉え、お受けすることにしました。
7月29日当日は、当院5階のラウンジにて、
お茶と和菓子でお迎えしながらお話をうかがいました。
最初は、AI内視鏡診断システムについての説明を30分ほど。
その後は話が広がり、さらに約1時間にわたって、
・現在のAI画像診断の精度や仕組み
・オリンパス、富士フイルムをはじめとする内視鏡メーカーの技術競争
・海外展開を含めた今後の医療AIの可能性
など、非常に多岐にわたるお話を伺うことができました。
世界の“最前線”の話を、
直接ご本人の言葉で聞くことができる――、
これは非常に貴重な時間でした。
ただ、
最後まで聞けずに終わったことがあります。
それは、
「なぜ京都の数あるクリニックの中から、当院を選ばれたのか」
という問いです。
著書を読んでいたご縁なのか、
あるいは過去のオンライン面談で何か印象を持たれたのか……
その理由は結局、聞きそびれてしまいました。
でも当日の代表の反応を見ていると、
私が本を読んでいたことは知らなかった様子でした。
ではどうしてここへ?
それはもはや野暮ったくて聞けませんでした。
現在、AIによる内視鏡診断の多くは、
まだ保険適用されておらず、
導入には一定の費用的ハードルがあるのが現状です。
多田先生によれば、
今後は保険収載を見据えた取り組みを続けており、
精度・速度ともにさらなる改良を重ねていくとのこと。
将来的には、
現場で“当たり前のように使われるAI診断”が実現する日も
そう遠くはないかもしれません。
「昔の内視鏡はAIなしで人間の知識と経験だけで、
診断をつけてたんだって。」
と言われる時代がきっと来ると思います。
当院では今すぐに何か導入を検討する
というわけではありませんが、
これからの検討事項として優先度が上がりました。
医療の世界ではまだまだ“人が見る力”が中心ではありますが、
AIという新しい相棒とどう向き合っていくか――、
より身近に考える時代に入っているのだと感じました。
吉岡医院 吉岡幹博