2025年7月27日
いよいよ7月も終盤で、
1年で最も暑い時期となりました。
外来に来られる患者様は、
体調がどうこうというわけでもなく、
皆さん異口同音にしんどいとおっしゃいます。
今年の暑さは本当に異常ですね。
皆様くれぐれも無理をなさらない様に
お願いいたします。
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さて、
本日は血便の患者様の対応について、
大腸カメラ検査と肛門科の診療の必要性について
お話させていただきます。
血便の患者様には軽症の方から重症の方まで様々で、
そのことについては、
皆様もご存知の通りかと思います。
身近なものですと、
排便時に肛門が切れる裂肛があります。
また重篤なものには、
直腸がん、S状結腸がん、といった
悪性疾患が挙げられます。
それ以外では内痔核などの肛門からの出血、
虚血性腸炎、潰瘍性大腸炎、感染性腸炎といった
腸の炎症による出血がよく遭遇する疾患です。
これらの疾患を見てみますと、
血便の原因は主に大腸、直腸による消化管出血と、
内痔核、裂肛といった肛門疾患が挙げられます。
そのため血便を正確に診断しようと思うと、
大腸の検査と肛門の診察両方が必要となります。
必ずしも全員がその両方を検査するわけではなく、
原因が明らかな場合には省略する場合もありますし、
体力的な問題で大腸カメラを省略することもあります。
ただ状況に合わせて、
大腸カメラと肛門診察ができないと、
病気を見逃すことがあると言えます。
最近このような患者様が来院されました。
2つケースについてみていきたいと思います。
一つ目のケースは30代の男性の事例です。
排便時に鮮血の出血と肛門痛があり、
他院の内視鏡専門のクリニックを受診されました。
大腸カメラを勧められ、
約1か月後に検査の予約をされたそうです。
肛門の診察はなく薬も出なかったようです。
治療をしていなわけですので、
その後も出血は続いていたとのことで、
1週間後当院を受診されました。
30代と若く、排便時の出血ですので、
まずは直腸がんなどの悪性疾患より、
肛門からの出血を疑います。
その場で肛門鏡で確認しましたところ、
肛門の上皮が裂けていて出血を認めました。
これは裂肛というよく見られる疾患です。
当然肛門からの出血は裂肛が原因と考えられ、
便も硬いとのことで緩下剤と注入軟膏を処方し、
数日で出血は改善しました。
皆さんはここで不思議に思われるかもしれません。
なぜ最初の内視鏡クリニックでは、
肛門の診察が行われなかったのかということです。
実はこれは診療する医師の背景が関係しています。
内視鏡をメインとされている医療機関の医師は、
ほとんどが内科(消化器内科)の医師となります。
内科出身の医師が主に内視鏡をしている現状があります。
また肛門科は慣例では外科の範疇になります。
肛門内科、肛門外科という言葉がありますが、
両者とも主に外科医が診療を行っています。
肛門と大腸は連続しておりますが、
その役割や機能は全く別物であります。
従って消化器内科の先生は基本的には、
肛門の診察をされる方は少ないと感じています。
肛門科というのは不思議なことに、
患者さんも多くありふれた病気であるにもかかわらず、
医学部ではほとんど勉強をすることがありません。
本当は凄く奥の深い、病気も多彩で難しい学問ですが、
若干他の臓器に比べ軽視されている感はあります。
私も外科医ですので肛門については知識はありますが、
あまり積極的にかかわっていませんでした。
消化器内科に転向してからは、
ほとんど肛門の診療は行っていませんでした。
主に開業してから診療を行うようになりました。
それでも以前には診療や手術も行っていたので、
比較的早くから診療できるようになりました。
このような背景もあり消化器内視鏡クリニックでは、
肛門疾患の診断、治療が、
積極的に行われない傾向にあります。
もちろんそのような内視鏡専門クリニックでも、
必要となれば肛門科を紹介されていると思いますので、
一概に言えることではありませんが。
二つ目のケースはこの逆のパターンです。
60代の男性ですが、
肛門科で排便時の肛門出血、肛門痛に対し、
ずっと痔の治療を受けておられました。
たまたまクリニック休診日に薬が無くなり、
当院を受診されました。
念のため当院で肛門鏡で診察したところ、
出血するような病変が見当たりません。
恐らく初期のころは
肛門出血だった可能性がありますが、
一旦そちらは治っているようです。
出血源がはっきりしないことより、
後日当院で大腸カメラを行ったところ、
直腸がんが見つかりました。
出血の痛みの原因も、
最初から直腸がんが原因だったのかもしれません。
肛門科の先生はほとんどが外科出身の先生ですので、
直腸がんや大腸がんといった重篤な疾患には、
きちんと対応されていると思います。
しかし肛門科の患者さんは非常に多く、
中には症状が肛門から来ていると考えらえるため、
内視鏡を後回しにしているケースもあると思います。
これは当院でも起こりうる話です。
例えばご高齢の方に出血性の痔がある場合には、
大腸カメラを控えることがあります。
その際には患者さんに、
よく説明しなくてはなりません。
おおむね肛門からの出血で間違いないと思うが、
大腸の検索も本当は行うべきということ、
そして大腸カメラが高齢者には負担が大きいので、
その負担を押してでも実施するかどうかということです。
ただ肛門科が肛門だけ見ている場合、
その施設が内視鏡を行っていない時には、
気が付けば後回しになってしまうことがあります。
この様なケースを経験すると、
血便の患者様が来院されたとき、
症状や経過をしっかり聞くことがとても重要と感じます。
あとはその方の年齢や既往症など。
何を疑い何を優先して検査治療を進めていくか、
ということが必要になります。
内視鏡だけのクリニックでは、
どうしても内視鏡中心に事が運びますし、
逆に肛門科だけでも同様です。
大腸カメラと肛門の診察。
この2方向からの診療が、
血便の患者様には大切だと考えております。
もちろん、どの医療機関にも
それぞれの得意分野や対応スタイルがあります。
患者様にとって最適な診療が受けられることが、
何よりも大切だと考えています。
皆様の参考になれば幸いです。
吉岡医院 吉岡幹博