2024年5月27日
台風の影響で天気が下り坂のようです。
先日沖縄地方で梅雨入りしたとのことでしたが、
今年は例年より遅かったようですね。
近畿地方は例年の梅雨入りは6月6日ごろで、
まだ今年の予想は発表されていません。
もうしばらくは晴天が続くかもしれませんね。
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さて、
2年に1回実施されている診療報酬改定ですが、
今年がその年に当たります。
例年は4月から施行されますが、
今回は改定内容が多く複雑だったのか、
準備期間があり6月からとなっています。
6月から点数や明細の内容が少し変わると思います。
医療機関受診の際は窓口負担が少し変わるかもしれません。
また疑問点があればお尋ねください。
保険診療を行う医療機関は、
この診療報酬に従って医療費を算定します。
これに料金を足したり引いたりすることはできません。
つまりこの診療報酬がどのように変わるかで、
医院の経営そのものにかかわってくる
非常に重要な決定事項となります。
私の印象では、
診療報酬は改定のたびに要件や施設基準が複雑になり、
実際診療していても分からなくなることも多いです。
それほど複雑でプロでもわかりにくい、
一般の患者さんや素人の方には
到底理解しがたいルールや設計もたくさんあります。
今回は6月からの診療報酬改定について、
これまでにない変わった改定がありましたので、
いくつかご紹介いたします。
● 医療DX推進体制管理加算
今回の改定では国が無理やり進めている
「医療DX」に点数がつけられました。
内容は、
オンライン資格確認により取得した診療情報・薬剤情報を
実際に活用できる体制を整備していること、
また、電子処方箋及び電子カルテ情報共有サービスを導入し、
医療DXに対応する体制を確保していることとなっています。
国の進める医療DXは
マイナ保険証にも代表されるように、
医療の質や効率があがるシステムではありません。
本来のDXは業務効率改善により、
労働時間や経費削減に寄与するものですが、
国の医療DXではそこが目的ではありません。
国民全体の医療データを取集し、
今後の医療政策に利用することが目的です。
診療が便利になることはなさそうです。
これにも関係しますが、
首相は12月から現在の健康保険証を強制的に廃止し、
マイナ保険証に切り替えることを言っています。
当初は任意取得であったマイナンバーカードも、
少しずつ論点をずらし健康保険と結びつけるなどで、
最終的には強制取得の方向へともっていくのでしょう。
現時点でも、
ほとんど利用者がいないマイナ保険証への切り替えを
無理してやる必要があるのか疑問が残ります。
おそらくシステムの変更や発行の手続きなど、
巨額の税金が使われることになります。
何となく東京オリンピック後の一連の出来事を、
思い出してしまいました。
● 外来・在宅ベースアップ評価料
今回の改定では、
多くの医療機関が減収となるような
改定がなされました。
この物価高騰、医療材料高騰のご時世にです。
医療機関の収益が下がると、
職員の給与も上げることができなくなります。
国としては景気回復のため、
国民の所得を上げることに必死になっています。
中小企業のような利益が出ていない所でも
給与を上げざるを得ないような空気を作っています。
本来は医療機関の収益が上がり、
それが職員に還元されるべきですが、
国は医療機関には収益を上げさせたくないのです。
そこで医療従事者の賃金を上げるためだけに点数をつける
「外来・在宅ベースアップ評価料」という制度ができました。
ベースアップは医療機関で働く職員の昇給のことです。
毎年昇給する医療機関にはその原資となる保険点数を上乗せして、
国がお金を出すということです。
具体手的には、初診料を6点(60円)、再診料を2点(20円)を
患者様の医療費から徴収し、それれによって増収した収益は、
全額職員の給与アップに使用するというものです。
今回の診療報酬改定で、
医療機関は実質マイナスになるため、
このままでは医療従事者の賃金が上がらないことを
国はわかっているのです。
国は医療費削減のため、医療機関への報酬は減らしたい、
しかし医療従事者のベースアップは図りたい、
この歪んだ考えが背景にあります。
すごくわかりにくい制度ですよね。
私も理解するのにすごく時間がかかりました。
この制度を申請した医療機関は、
診察料金に加算されて得られた毎月の増収分を、
全額職員の賃金にアップに充てたということを、
3か月に1回国に報告しなければなりません。
その報告をするための、
給与総額や職員数などの計算が煩雑なので、
多くの医療機関の院長・理事長には困難な作業です。
かといって職員全員の給与額を扱うために、
事務の方にお願いすることもためらわれます。
そこでこの作業を税理士さんや社労士さんにお願いすると、
それなりの費用が発生してしまいます。
例えば、ベースアップ評価料を申請し、
診療報酬で月5万円くらい上乗せしてもらえたとします。
その5万円は職員の給与に充てられるのですが、
その報告をするために税理士さんや社労士さんに、
数万円から5万円以上の費用が発生したとすれば、
申請しない方がましということになります。
私のつたない説明を聞いて、
さっと理解される方はよほど頭の切れる方。
ちょっと普通には理解できないですよね。
本当に使えない制度とはこのことです。
もっとシンプルな制度にすれば、
無駄な経費を払わなくて済むのにと思いませんか。
コロナの時の「雇用調整助成金」を思い出します。
あの制度も煩雑で申請する方もされる側も
大変苦労したことを国はもう忘れちゃったのでしょうか。
当院も現時点では申請しないことにしています。
● 外来感染対策向上加算
前回の診療報酬改定からこの制度ができました。
これはコロナなどの感染対策を行う医療機関に対する
その対策費用のために設けられました。
今回の「外来対策向上加算」では、
要件の見直しがなされました。
これを算定する医療機関(診療所も病院も)は、
行政と「指定医療機関」の協定を締結することが、
要件に追加されました。
内容は、
今回のコロナなど未知の感染症が起きた時には、
いち早く発熱外来で感染患者の診療を行うと、
都道府県で約束をすることです。
つまり新たな感染症が起こったときに、
全貌もわからないうちから診療に当たるようにと
なかば強制されるものです。
インフルエンザやコロナであれば、
まだ対応できると思いますが、
エボラウイルスなどだったらどうするのでしょうか。
私たちは常から発熱外来をやっているので、
今回のコロナの時もそうでしたが、
行政の指示に従い協力しながら診療を行っています。
しかし平時から行政と協定を結んで、
半ば強制的に最前線で診療に当たる義務を負うのは、
少し恐怖心をいだきます。
この協定を結ばなければ、
これまでもらえていた「外来感染対策加算」がもらえなくなり、
大きな減収となってしまいます。
医師や看護師も危険にさらされますが、
医療事務なのど非専門職のスタッフも
感染症のリスクを負って仕事をすることになります。
その人たちのことをどう思っているのでしょうか。
医療機関の収益と引き換えにハイリスクな仕事を強制する。
このような仕組みは看過できないと思っています。
国は、医師の働き方改革が始まり、
医師の業務を他の業種の移行するタスクシフトなど、
医療従事者の負担を軽減するような施策を打ち出しています。
一方では見える所、見えないところで、
医師や医療従事者の業務を増やし
様々な重圧を増やしていることも否定できません。
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少し愚痴のような内容になりましたが、
医療機関の実情や国がどのようなことを考えているのか、
知っていただきたいために投稿いたしました。
この様な状況ではありますが、
当院はこれまで通り信頼できるスタッフとともに、
患者様によりよい医療を提供することを目標に、
頑張っていきたいと思っております。
よろしくお願いいたします。
吉岡医院 吉岡幹博