2025年9月27日
長く暑かった夏も終わり、
ようやく朝晩は秋らしさを感じるようになりました。
本当の意味で季節の変わり目ですね。
体調管理が難しい時期です。
コロナやインフルエンザの感染症も流行っています。
皆様も規則正しい生活を心がけてください。
●
今日は久しぶりにピロリ菌のお話です。
以前にも書いたことがありますが、
だいぶ前なのでもう一度復習のつもりでご紹介します。
ピロリ菌とは、正式には
「ヘリコバクター・ピロリ」と呼ばれる細菌です。
らせん状の形をしており、
強い胃酸の中でも生き続ける
特殊な性質を持っています。
この菌は、全世界で感染が見られ、
日本でもかつては多くの人が感染していました。
感染は幼少期に起こることがほとんどです。
(4歳までといわれています)
かつての日本では、
井戸水や不十分な衛生環境が
感染源となりました。
また、
家族間の食器の共有や食べ物の口移しなども
原因の一つとされています。
一度感染すると、
自然に消えることはほとんどありません。
胃の粘膜に住みつき、
長い年月をかけてじわじわと炎症を引き起こします。
この炎症は「慢性胃炎」と呼ばれ、
生涯を通じて自覚症状はあまりありません。
慢性胃炎が長く続くと、胃の粘膜は次第に変化していきます。
炎症のダメージで粘膜は萎縮し、薄く弱くなります。
この状態を「萎縮性胃炎」と呼び、胃がんの土台となります。
さらに進行すると「腸上皮化生」が起こります。
あまり聞き覚えのない言葉と思いますが、
萎縮性胃炎から次の段階に進んだ状態です。
腸上皮化生では胃の粘膜が本来の性質を失い、
腸のような細胞に置き換わる変化です。
胃がんの発生につながる重要な前段階です。
胃カメラで腸上皮化生の強い胃粘膜を見たときには、
胃がんがないかどうか慎重に観察します。
時には色素をまいたり組織を採取して確認します。
つまり胃がんのハイリスク状態といえます。
胃がん患者さんの大半がピロリ菌感染歴を持っています。
世界保健機関(WHO)はピロリ菌を
「発がん因子」と公式に認定しました。
日本における胃がんの大部分も、
ピロリ菌が関与していると考えられています。
放置すればどうなるでしょうか。
胃潰瘍や十二指腸潰瘍を繰り返し、
出血や貧血を起こすこともあります。
そして何より恐ろしいのは、
知らぬ間に胃がんが発生してしまうことです。
このリスクを減らす有効な手段が「除菌治療」です。
抗菌薬2種類と胃酸を抑える薬を1週間服用します。
成功率は高く、多くの方が1回で除菌に成功します。
除菌に成功すると、
胃がんのリスクは大幅に低下します。
疫学研究でも、
除菌を受けた人は受けていない人に比べ、
新たな胃がんの発生率が数分の一に下がることが示されています。
これは医学的に大きな進歩であり、
日本でも広く行われるようになりました。
健診や人間ドックでピロリ菌が指摘されれば、
除菌治療が勧められます。
患者さんにとっても負担が少なく
受けやすい治療になっています。
しかし、ここが重要なところなのですが、
除菌をしたからといって
「胃がんの心配がなくなる」わけではありません。
すでに炎症や萎縮が強かった粘膜は、
完全に元に戻らないからです。
特に高度萎縮や腸上皮化生がある方は、
除菌後もリスクが続きます。
除菌は「リスクを下げる手段」であって、
「ゼロにする手段」ではありません。
この点を理解していただくことがとても大切です。
では、除菌後はどうすればよいのでしょうか。
答えは「定期的な胃カメラによる経過観察」です。
目に見えない粘膜の変化を直接確認できるのは、
胃カメラしかありません。
健診や人間ドックでバリウムによる胃透視検査がありますが、
ピロリ菌除菌後の方はバリウム検査は推奨されません。
必ず胃カメラを受けていただく必要があります。
なぜなら、胃カメラと比較して
胃透視では微細な病変を発見でしずらいからです。
粘膜の色調だけの変化はとらえることができません。
胃カメラによって早期の小さながんを発見することができます。
早期がんであれば、内視鏡による切除で治療が可能です。
体への負担が少なく、入院期間も短く済むのが大きな利点です。
逆に、症状が出てからでは進行していることが多く、
外科手術や抗がん剤が必要になる場合もあります。
その差は、定期的な検査を受けていたかどうかにかかっています。
何度も言いますが、
ピロリ菌除菌でリスクを下げることはできますが、
胃がんをできなくするものではありません。
したがって除菌後の目標は、
除菌したにもかかわらずできてしまった胃がんを
なるべく早期に発見することにつきます。
外来でもよく見かけるのは、
以前に除菌治療を受けていながら、
その後は胃カメラを定期的に受けていない方です。
一度も受けず5年、10年とたっている方もあり、
そのような方で胃カメラをすると、
胃がんが見つかることも珍しくありません。
絶対に放置してはいけません。
では、
どのくらいの間隔で検査を受けるべきでしょうか。
一般的には「年1回」の胃カメラが
望ましいとされています。
これは残っているリスクを早期に発見するための
標準的な考え方です。
ただし、胃の粘膜の傷みが軽く、リスクが低いと判断できる方では、
「2年に1回」の胃カメラでもよい場合があります。
特に若いうちに除菌をした方はそのような方が多いです。
その方の年齢、家族歴、胃の状態を踏まえて
個別に判断していることが多いです。
大切なのは「除菌をしたから終わり」ではなく、
「除菌をしたからこそ、ここからがスタート」という考え方です。
将来の安心を守るために、定期的に自分の胃を見守る必要があります。
「ピロリ菌除菌後も、胃カメラでのフォローが必要です」
これは私から皆様への大切なメッセージです。
どうか忘れずに定期的な検査を受けてください。
吉岡医院 吉岡幹博